じんま疹の治療については
じんま疹のページにも記載していますので、そちらも参照してください。
ちなみに、2018年に発表されたじんま疹の診療ガイドラインでは下のような図が提唱されています。
その中で、このページで説明するのは最重症のじんま疹に対する治療であるSTEP3に該当します。
じんま疹に適応のある生物製剤
現時点(2025年4月時点)で
じんま疹に適応のある生物製剤には
- ゾレア(オマリズマブ)
- デュピクセント(デュピルマブ)
の2剤です。
デュピクセントはじんま疹の前にアトピー性皮膚炎の治療薬として登場しました。
詳細は
アトピー性皮膚炎のデュピクセントのページを読んでもらう方がわかりやすいかもしれません。
ゾレアはこのホームページでは初登場です。
おのおのの薬剤について説明します。
ゾレアの作用機序
ゾレアの作用機序は複雑ですが、
「血中のIgEというタンパク質にくっついて、IgEが肥満細胞にくっつくところを邪魔する薬」
と理解してもらえば概ね間違いではないと思います。
製薬会社のホームページを参考にしてシェーマを作製してみました。
まず、じんま疹とは、
肥満細胞から放出されたヒスタミンによって生じる疾患であることを理解してください。
そのため、治療のためは
ヒスタミンの放出をとめればよいことになります。
ゾレアにはこの「ヒスタミンの放出」をとめる効力があります。
ちなみに、じんま疹で内服する抗ヒスタミン薬はヒスタミンの放出をとめているわけではありません。
ヒスタミンが皮ふに作用するところをブロックしているのです。ここは大きな違いですね。
では、どうやって肥満細胞はヒスタミンの放出するのでしょうか?
そのためには、IgEというタンパク質がわるさをしています。
肥満細胞の表面にある
受容体(FcεRI)に
IgEというタンパク質がくっつくことで肥満細胞がヒスタミンの放出します。
では、ゾレアはどのようにヒスタミンの放出をとめているのでしょうか?
ゾレアは血中のIgEとくっつくことでIgEが受容体にくっつくことを邪魔しています。
ゾレアがIgEにくっついて受容体にくっつかないように邪魔していますね。
その結果、肥満細胞からヒスタミンが放出しなくなります。
ゾレアの適応
ゾレアを投与できる条件です。
- 今までの治療で効果が不十分
- 12歳以上
- じんま疹の原因が不明
- ゾレアに対する過敏症の既往がない
条件を満たす場合でも、妊娠中および授乳中の方はあらかじめご相談ください。
ゾレアの製剤見本
ゾレア皮下注150mg シリンジ

ゾレア皮下注300mg ペン
2024年8月に発売されました。
ゾレアの投与法
成人および12歳以上の小児には、
1回300mgを
4週間毎に
皮下に注射します。
つまり、ペンタイプなら1本、シリンジタイプなら2本を1ヶ月に1回注射します。
自己注射が可能な薬剤ですが、自己注射を行うためには初回と2回目は院内で注射する必要があります。
ゾレアの効果について
大変有効な薬剤です。
当院では過去に延べ12人にゾレアの投与経験があります。
そのうち、4人は急に生じた高度なじんま疹の患者さんです。抗ヒスタミン剤、ステロイド内服、注射が効かないためゾレアを投与しました。
わずか1回の投与ですっかりじんま疹は軽快しました。
残りの8人は慢性じんま疹の患者さんです。
抗ヒスタミン剤を内服すればじんま疹は抑制できますが、止めると再発するという経過を数年間繰り返している患者さんでした。
ゾレアを3〜6回投与しましたが、約50%の患者さんは抗ヒスタミン剤を内服しなくてもじんま疹が生じなくなりました。(つまり、概ね治ったということです。)
しかし、約半数の患者さんはしばらくしてじんま疹が再燃しました。つまり投与を止めるとじんま疹がぶり返しました。(ただし、それでもじんま疹の程度はそれ以前より軽減していました。)
無双の効果ではありませんが、通常の治療に比べて強い効果があることは実感できる薬剤です。
ゾレアの医療費
大変高額な薬剤です。
種類 |
薬剤費 |
ゾレア皮下注300mg ペン |
40,091 円 /キット |
ゾレア皮下注150mg シリンジ |
21,323 円 /筒 |
シリンジの場合、2筒を注射しますので、上記の金額の倍になります。
3割負担の方にゾレア皮下注300mgペン2mLを1筒注射した場合、負担金額は
12,027.3円です(薬剤費のみの計算です)。
なお、1ヵ月の医療費の支払い額(自己負担額)が高額になる場合は、高額療養費制度などの負担軽減措置が受けられることもありますので、詳しくは、加入の保険者(市町村や企業の健保組合)までご確認ください。
もう1つの薬剤がデュピクセントです。
デュピクセントについてはすでにアトピー性皮膚炎の治療で絶賛使用されています。
詳しくは、
デュピクセントのページをご覧になる方がよくわかると思います。
じんま疹への治療は
2024年2月から認められました。
当院では、じんま疹には使用経験がありません。
デュピクセントの効果は少しずつ現れるようですので、3ヶ月-6ヶ月間投与を行い治療効果を判定する必要があるとのことです。
デュピクセントの適応
デュピクセントを投与できる条件です。
- 今までの治療で効果が不十分
- 12歳以上
- じんま疹の原因が不明
- 6週間以上経過しても症状が続いている
条件を満たす場合でも、妊娠中および授乳中の方はあらかじめご相談ください。
デュピクセントの作用機序
アトピー性皮膚炎に対する機序と同じはずですが、正直どのようにじんま疹に効いているのかよくわかりません。
アトピー性皮膚炎のデュピクセントのページに記載しているシェーマです。
デュピクセントはサイトカインである
IL-4とIL-13をブロックすることで、アトピー性皮膚炎の発症や増悪を押さえています。 また、
Th2というリンパ球に分化する過程を抑制することもできます。
同じ薬剤ですので、じんま疹についても薬理作用は同じはずです。
じんま疹については、IL-4、IL-13が下の表のような作用を引き起こすようです。
IL-4 |
IgEとIgEの産生誘導 |
好酸球や好塩基球の皮ふへの移行 |
IL-4・IL-13 |
受容体(FcεRI)の増加 |
痒みの発生 |
そのため、デュピクセントにより
IL-4とIL-13をブロックすることで、じんま疹を抑制できることになります。
ゾレアに比べて即効性がないのは、経路が複雑だからかもしれないですね。
デュピクセントの投与法
アトピー性皮膚炎への投与と同じです。
成人では、
初回に600mgを皮下投与し、その後は1回300mgを2週間隔で皮下投与します。
小児では
体重に応じて以下を皮下投与します。
30kg以上60kg未満
初回に400mg、その後は1回200mgを2週間隔
60kg以上
初回に600mg、その後は1回300mgを2週間隔 (つまり、成人と同じです。)